東京地方裁判所 平成5年(行ウ)185号 判決 1993年12月21日
東京都文京区小石川三丁目一番一一号
原告
株式会社スタイル商会
右代表者代表取締役
金井清
右訴訟代理人弁護士
大辻正寛
東京都文京区春日一丁目四番五号
被告
小石川税務署長 武田伸策
右指定代理人
松村玲子
同
志村勉
同
海老澤洋
同
大原豊実
同
江口庸祐
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告が平成四年二月二七日付けでした原告の昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの事業年度(以下「平成元年一一月期」という。)の法人税の更正のうち、所得金額五〇九九万六七一六円、課税土地譲渡利益金額〇円、課税留保金額七九六万九〇〇〇円、納付すべき税額二〇九八万五九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 被告が平成三年一二月二七日付けでした原告の平成元年一二月一日から平成二年一一月三〇日までの事業年度(以下「平成二年一一月期」という。)の法人税についての重加算税賦課決定(ただし、平成四年二月二七日付けの賦課変更決定により減額された後のもの)及び右事業年度と同一の課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税についての重加算税賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告の平成元年一一月期の法人税の申告に関し、資産の買換えを理由とする原告の圧縮記帳の経理が是認できないことなどを理由に被告が行った更正及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件課税処分」という。)並びに原告の平成二年一一月期の法人税及び本件課税期間の消費税の申告に関し、被告が行った重加算税賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定」という。)について、原告が各処分の取消しを求めている事案である。
一 本件訴訟に至る経緯(争いのない事実)
原告の平成元年一一月期の法人税についての申告、課税処分及び不服申立ての経緯は別表一のとおりであり、原告の平成二年一一月期の法人税についての申告、重加算税賦課決定及び不服申立ての経緯は別表二のとおりであり、本件課税期間の消費税についての申告、重加算税賦課決定及び不服申立ての経緯は別表三のとおりである。
二 本件課税処分の根拠等
1 株式会社晃聖札幌善光社との不動産取引等(争いのない事実)
(一) 原告は、平成元年二月ころ、原告が所有していた札幌市豊平区美園三条二丁目一一番地所在の宅地(二五四・五四平方メートル。以下「豊平区土地」という。)及び同土地上の事務所(二〇八・二六平方メートル。以下「豊平区建物」といい、豊平区土地と合わせて「豊平区物件」という。)を株式会社晃聖札幌善光社(以下「善光社という。)に譲渡し、他方、山川榮子名義の札幌市白石区東札幌一条六丁目一番三所在の雑種地(二五四・四平方メートル。以下「白石区土地」という。)を取得することにした。
(二) 原告は、善光社との間で、豊平区物件を代金六一六〇万円で売り渡す旨の平成元年二月一三日付けの売買契約書を作成し、右売買代金及び原告の営業補償金として、平成元年二月一三日に一〇〇〇万円、同年三月一日に五一六〇万円、同月五日に一二〇〇万円を受領した旨の各領収書を作成して善光社に交付した。また、原告は、山川榮子から白石区土地を代金四二〇〇万円で買い受ける旨の平成元年二月一三日付けの売買契約書を作成し、右売買代金として、平成元年二月一三日に一〇〇〇万円、同月二八日に三二〇〇万円をそれぞれ受領したことを認める内容の、山川榮子作成の二通の領収書を受け取った。
(三) 原告は、平成元年三月六日、有限会社丸昭柿﨑工務店(以下「柿﨑工務店」という。)との間で、白石区土地上に原告の札幌支店の事務所及び倉庫用の建物(以下「白石区建物」といい、「白石区土地」と合わせて「白石区物件」という。)の建築工事を代金三〇〇〇万円で同社に請け負わせる契約を締結し、請負代金として、合計三〇〇〇万円を同社に支払った。
2 本件課税処分の根拠について
(被告の主張)
(一) 原告の所得金額 合計 八一一六万六九四二円
(1) 原告の申告額 五〇九九万六七一六円
(2) 圧縮損の損金不算入 二九七五万二一二円
原告は、豊平区物件の譲渡益を平成元年一一月期の益金の額に計上する一方、豊平区物件及び白石区物件はそれぞれ租税特別措置法六五条の七第一項に規定する譲渡資産及び買換資産に該当するという見解の下に、同項の規定に従って、白石区物件に係る圧縮限度額を三〇七五万八四〇〇円と計算し、これを平成元年一一月期の法人税の確定申告の際に、損金として計上した。
しかしながら、原告による豊平区物件の譲渡及び白石区物件の取得に関して租税特別措置法六五条の七の規定が適用される余地はないから、白石区物件に係る圧縮損繰入額三〇七五万八四〇〇円から白石区建物の減価償却費として損金算入が認められる一〇〇万八一八八円を控除した二九七五万二一二円は、原告の所得金額に加算すべきである。
(3) 雑益計上もれ 一四円
原告が、昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの課税期間分の消費税の確定申告をした際、白石区建物の建築代金三〇〇〇万円のうち、課税仕入消費税相当額である八七万三七八六円を、控除対象仕入額に算入せずに納付税額を計算したため、被告は、平成四年二月二七日付けで減額更正処分を行った。その結果、原告に一四円が還付されることになったが、この一四円は、所得金額に加算されるべき雑益になる。
(4) 新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額 四二万円
原告は、平成元年二月二八日に山川榮子から白石区土地を四二〇〇万円で取得しているところ、これに係る負債の利子は、租税特別措置法六二条の二第一項の規定により損金算入が否認されるから、同項に基づき算出した負債の利子四二万円を所得金額に加算すべきである。
(二) 課税土地譲渡利益金額 一五八九万八〇〇〇円
原告は、昭和六〇年九月二七日に株式会社藤田印刷所から豊平区土地を三二三〇万円で、豊平区建物を二五七万一〇〇円で取得し、平成元年三月一日に豊平区物件を善光社に六一六〇円で譲渡したものであるから、短期所有に係る土地等を譲渡した場合に関する租税特別措置法六三条一項所定の譲渡利益金額に対する法人税を納付すべき義務を負担するところ、右譲渡利益金額は、土地譲渡収益の額五九七七万三一六一円(六一六〇万円から豊平区建物の譲渡価額相当額一八二万六八三九円を控除した額)から、土地譲渡原価の額(三二三〇万円)、負債利子の額(六九四万四四九九円)、販売費及び一般管理費の額(四六二万九六六六円)の合計額を控除した残額一五八九万八〇〇〇円である(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)。
(三) 課税留保金額 八〇二万七〇〇〇円
(一)の所得金額及び(二)の課税土地譲渡利益金額をもとに原告の平成元年一一月期の課税留保金額を計算すると、八〇二万七〇〇〇円となる(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)。
(四) 原告の納付すべき税額 三六八四万二八〇〇円
原告の平成元年一一月期の所得及び課税土地譲渡利益金額に対する税額は合計三六〇四万一一〇円、課税留保金額に対する税額は八〇万二七〇〇円で、原告の納付すべき税額は合計三六八四万二八〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)になる。そして、右金額は、被告の更正処分において算定された税額と同額である。
(五) 過少申告加算税の賦課決定 一五八万五〇〇〇円
被告は、国税通則法六五条一項に基づき、更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった法人税額一五八五万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて、過少申告加算税の額を算定したものである。
(原告の認否)
本件課税処分の根拠に関する被告の主張のうち、豊平区物件と白石区物件の取引について、租税特別措置法六五条の七第一項の適用を否定した点は争うが、その余の課税根拠及び同項の適用が否定された場合の本件課税処分の算出自体に関する主張は争わない。
3 本件重加算税賦課決定について
(一) 原告による過少申告(争いのない事実)
(1) 原告は、売掛金残高明細書を改ざんして、実際の売掛金残高の合計額よりも少ない金額を記載した期末売掛金残高明細書を作成した上、東京営業所については一二九〇万七一九八円、大阪営業所については三二九万七八五一円、長岡営業所については九五三万三三五四円、札幌営業所については九〇〇万三七八六円、それぞれ売掛金残高を過少に算定した各営業所ごとの売掛金一覧表を作成し、平成二年一一月期の法人税及び本件事業期間の消費税の申告の際に、平成二年分の売上げである売掛金を合計三四七四万二一八九円だけ過少に計上した。
(2) 原告は、一部の買掛先について作成された買掛金明細書の買掛金額を改ざんすることにより、商品仕入に係る買掛金については三〇〇万円、消耗品購入に係る買掛金については一〇万円それぞれ実際の残高よりも過大に算定し、平成二年一一月期の法人税及び本件事業期間の消費税の申告の際に、仕入高を二九一万二六二二円、消耗品費を九万七六八八円、それぞれ過大に計上した。
(二) 被告による重加算税の賦課決定
被告は、(一)記載の原告の過少申告行為が、国税通則法六八条一項所定の事由に該当すると判断し、右規定に基づき、平成四年二月二七日付けの減額更正処分後に原告が追加納付すべき法人税額一四二一万円(ただし、同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の三五の割合を乗じて重加算税額四九七万三五〇〇円を算定し、また原告の平成三年一一月二六日付けの修正申告後に原告が追加納付すべき消費税額一一三万円(ただし、同項の規定により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の三五の割合を乗じて重加算税額三九万五五〇〇円を算定したものである。
三 争点
1 本件課税処分について
(一) 原告の主張
原告は、豊平区物件を処分する必要は全くなかったが、これを取得しようとした善光社が葬儀場という公共的な事業を行っており、周辺住民からも協力の依頼を受けたため、豊平区物件を善光社に譲渡し、その見返りとして白石区物件を取得することにしたものである。原告は、専ら善光社との間で取引を行ったものであり、山川榮子とは会ったこともない。また、原告は、右取引に関し、売買代金の受領及び支払をしておらず、何らの利益も得ていない。
右の経緯に照らせば、右取引は、売買の形式を取ってはいるものの、実質的には交換に当たり、豊平区物件及び白石区物件は、それぞれ租税特別措置法六五条の七第一項の表の一号に掲げる上欄の交換譲渡資産と下欄の交換取得資産に該当するから、同法六五条九の規定が適用されるべきである。
(二) 被告の主張
原告が善光社へ譲渡した豊平区物件並びに山川榮子から取得した白石区土地及び柿崎工務店の建築に係る白石区建物は租税特別措置法六五条の七第一項の表の各号に掲げるいずれの組み合わせにも該当しないから、白石区物件の取得に関して同法六五条の七又は同法六五条の九所定の圧縮記帳の特例措置が適用される余地はない。
2 本件重加算税賦課決定について
(一) 原告の主張
原告は、平成三年一一月二六日に平成二年一一月期の法人税及び本件課税期間の消費税について修正申告を行い、右法人税及び消費税の不足分及び延滞金を支払ったから、被告が重加算税を賦課したのは不当である。
(二) 被告の主張
原告による二3(一)記載の過少申告行為は、国税通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するから、本件重加算税賦課決定は適法である。
第三争点に対する判断
一 本件課税処分の適否について
原告は、豊平区物件と白石区物件の取引は、実質的には交換であった旨主張して、租税特別措置法六五条の九、六五条の七第一項の特例を適用することを求めている。しかしながら、右取引が交換に当たるかどうかはともかく、同法六五条の九第一項は、法文上、同法六五条の七第一項の表の各号の上欄に掲げるものと当該各号の下欄に掲げる資産との交換をした場合にのみ適用されることとなっており、豊平区物件につき原告が該当すると主張する同表の一号上欄によれば、譲渡資産は首都圏の既成市街地、近畿圏の既成都市区域及び政令で定める区域といった特定の区域内に存することが要件とされている。これは、既成市街地等内での過密の解消等の国の土地政策又は国土政策に基づいて、対象地域を限定して課税の特例措置を定めたものであると解されるところ、原告の主張に係る豊平区物件の所在地が右いずれの対象地域にも該当しないことは明らかであるから、原告の主張する豊平区物件と白石区物件の取引に同法六五条の九の規定を適用することはできないものといわざるを得ない。
二 本件重加算税賦課決定の適否について
原告は、第二、二3(一)記載のとおり、東京営業所ほか三営業所の期末売掛金明細書を改ざんして期末売掛金残高を実際の残高よりも過少に計上して売上高を除外し、また、札幌営業所の期末買掛金明細書を改ざんして仕入高及び消耗品購入に係る買掛金を実際の残高よりも過大に計上して商品仕入高及び消耗品費を架空計上するなどの方法により、故意に課税要件となる事実の一部を隠し、他方、存在しない課税要件事実が存在するかのように見せかけて、法人税額及び消費税額の確定申告を行ったものであるから、原告の右行為は、国税通則法六八条所定の「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するというべきである。
原告は、平成三年一一月二六日に平成二年一一月期の法人税の修正申告を行い不足分を納付したから被告が重加算税を賦課したことは不当である旨主張するけれども、重加算税は、当該納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由が存する場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課することとしたものであり、このことに照らせば、確定申告の後に修正申告をし、過少申告分に対応する本税を全額納付したとしても、これによって、重加算税の賦課の可否に何らの影響を及ぼすものでないことは明らかであるから、原告の右主張は採用できない。
三 結論
以上のとおり、本件課税処分及び本件重加算税賦課決定は、適法な処分であると認められるから、原告の請求は理由がない。
(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 孝橋宏 裁判官 森田浩美)
別表一
昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの事業年度の法人税の課税処分等の経緯
<省略>
別表二
平成元年一二月一日から平成二年一一月三〇日までの事業年度の法人税に係る重加算税の賦課等の経緯
<省略>
別表三
平成元年一二月一日から平成二年一一月三〇日までの課税期間の消費税に係る重加算税の賦課処分の経緯
<省略>